都会暮らしに疲れたら

 

 

 急に思い立って、「琵琶湖に行こう」と思った。高校生のころ、急に学校に行けなくなって、逆方面の電車に乗って近畿を一周し(大回り乗車というバグ技を使えば初乗り運賃で可能)、17時頃に琵琶湖を通りがかったときの夕焼けを思い出したのだ。

 そういえばわたしのまわりの人たちは、滋賀県にゆかりのある人が多い。父方の実家が大津だったり、弟が通っていた大学が彦根だったり、大学生のころに片思いをしていた女の子が近江八幡から通っている子だったりした。

 なんとなくいつでも脳内にはぼんやりと琵琶湖の存在がある。

 

 父親に「琵琶湖の景色をみにいく」と伝えると、「変な気を起こすかもしれんからやめとけ」と止められた。自殺しにいくと思われたっぽい。たしかにいつだって自殺はしたいし、青春の思い入れのある琵琶湖で死ぬのはロマンがあるが、入水自殺は発見者に申し訳ない。というか、どんな自殺もそうだ。

 

 

 

 大阪駅から1時間半ほど、JR京都線とJR湖西線を乗り継いで、志賀駅に向かう。この駅は、歩いて2~3分ほどで湖岸に着くのだ。片道1320円で、ちょっとした遠出にはコスパがいい。

 

 湖に着くと、ビキニ姿の女性2人組が琵琶湖に半身だけ浸かって、この夏を終わらせまいとはしゃいでいた。大きな波がきて、きゃーと叫んでいる。元気そうでなによりだ。

 ほかにも木陰でワインを空けている大人たちや、のんびり湖に浮かんでいる家族連れがいた。バーベキューは禁止らしい。管理社会は悲しいなあ。

 湖岸を散歩するつもりで来たのに、なぜかサンダルを履いてしまったので、靴の中にどしゃどしゃと砂が入ってくる。やらかした。

 

 

 夕暮れ時までまだ時間があるので、マップで喫茶店をさがした。どうやら喫煙可能店はないようだ。まあそりゃあそうだと思う。志賀駅エリアは琵琶湖観光の穴場で、たまに来る観光客をもてなしたければ、喫煙可能店にしている場合ではない。

 喫茶・軽食「ポプラ」に入る。かろうじて入口に灰皿が設置されていた。せめてもの良心があってよかった。

 たまごチーズトーストとアイスコーヒーを注文する。そんなに空腹ではないけれど、せっかく来たからには記念に何かを食べておきたかった。根性がデブだから。

 素朴な味のトーストとアイスコーヒーはバランスがよかった。たまに店の外での一服をはさんで、まったりしてから退店した。モバイルバッテリーを忘れたので、あまりiPhoneを触れない。本のひとつでも持ってこればよかった。近隣には本屋もなければチャージスポットもない。かなり詰んでいる。

 

 

 そういえば今晩、最近たずさわらせてもらっているフォロワーの事業のオンラインミーティングがあるということを急に思い出して、夕焼けどころではなくなった。わりといそいで帰らなければならない。まあでもせっかく来たのだし1駅ぶんの散歩ぐらいさせてもらおう。

 

 JR湖西線はほとんど琵琶湖沿いを走るので、琵琶湖を横目にしながらぼーっと歩いていると、気づいたら隣の駅前にいる。駅前といってもコンビニのような便利な施設はない。ただそれまで生えっぱなしでぼさぼさだった草木がちょっと刈られていて、車が泊められそうなロータリーっぽい雰囲気がほんのり醸し出されているくるいだ。

 ひたすら南下していると、サイクリングやランニング、犬の散歩などさまざまなアクティビティにいそしむ人たちとすれ違った。生活圏に琵琶湖がある暮らしは、非常によい。都会暮らしに疲れたらこのあたりに移住してもいいなと思いつつ、大阪市内の便利な暮らしを知ってしまったのでそんな日はきっと来ないだろうとも思う。まあいつまで生きているんだろうという話ではある。

 

 駅に着くと運よくちょうど京都行の電車が来た。これにて数時間のひとり旅が終了。予定よりもはやい出発ではあるが、これから電車に乗ると琵琶湖の夕焼けが車窓から見える。なんだかんだいい旅程だった。

 

 

 

 家でぼーっとしていると自動思考で死にそうになるし、寝ると高確率で悪夢にうなされるし、外でぼーっとしていてもお金がなくなっていくし、とりあえずここのところはたくさんの人が会ってくれているので、自動思考を封じ込められてはいるけれど、24時間無休でだれかがそばにいてくれるわけでもないので、自分の問題として片づけなければならない。誰にも会えないときは、ウーとかァーとか言ってふとんの上で孤独にじたばたしている。くるしい。

 

 はやく楽になりたい。わたしはきっとわたしとして生きているだけで、過去と地続きの現在に殺されそうになる。はやくすべてを断ち切りたい。ということをもう何年も言っている。これを言っているうちにも時間は過ぎて、「地続きの現在」は更新されていく。そろそろポジティブな更新をできるようになりたい。前向きに生きてくれ。