生きてまたかならず会おうね(東京旅行記 4日目)

 

 無事に11:00に起床することが成功。

 なんと昨晩のうちにきょうも2人のフォロワーが会ってくれることが決まっていた。ほんとうにすごい……。

 

 まずは腹ごしらえに池袋の「炭火焼珈琲 蔵」でミートパスタとアイスコーヒーをいただく。

 食べログ百名店に登録されている有名店らしく、わたしが入ったらもうすぐに満席になった。運がいいぜ!

 しかしこういう登録がされているにもかかわらず煙草が吸えるというのは大変にありがたい。喫煙可能店というだけで嫌煙家によって大幅に評価を下げられる世の中なのに、それでも評価が高いままつづいているのは素晴らしいことだ。

 店内の雰囲気も木目調で非常にまったりしていて、珈琲も上品な苦味と酸味のバランスがよく、すっきりした後味が特徴で味わい深かった。

 

 

 1時間ほど滞在して、フォロワーと合流する。なんと店前まで車で迎えにきてくれたのだ。これから下北沢に向かうのだが、土地勘がまったくないのでほんとうに助かる。こんなにありがたいことはないぜ……。しかし都内住みで車があるなんてすごいな。自由の象徴だ。

 しかも車に乗せてもらったら、飲み物まで用意してくれていた。東京の男性って気づかいのレベルがすごい。おったまげた。

 いただいた飲み物は何という名前だったかおぼえていないのだが、コーヒー豆をコーヒーにせずにジュースにしているという見たことも想像したこともない新種の飲み物だった。大塚に店舗があるらしい。27年も生きてきて、まだ味わったことのないものが存在するとは……。

 

 

 「下北沢THREE」というライブハウスに向かう。彼はバンドをしていて、そのつながりのお友達のライブを観にいくとのことだった。どうもダブルブッキングしていたようで、それならばガッチャンコしてしまえばどちらにも行けるのではというご名案だった。

 

 「モテギスミス」という4ピースバンドが主催した対バンライブだった。客足もそこそこ多く、フロアのエリアからややはみ出すぐらいで、その期待どおりクオリティの高いバンドだった。

 どこかフォークソングを彷彿とさせるような、それでいてポップでもロックンロールでもあり、すごくバランスのいい音楽だった。ボーカルの女の子もとても歌がうまく、ギターのフレーズもオリジナリティただようポップさがあり、リズム隊の演奏もとてもレベルが高い。

 この規模のライブハウスで活動するバンドでもこんなにもクオリティが高いのかと驚いた。きっと2~3年もすれば下北沢のロックシーンに欠けてはならない存在になるだろうと思う。

 

 

 そして、展覧会にも誘ってもらっていたので、初台のICCに向かう。メディアアートで活躍しているアーティストをキュレーションした展示だ。

 わたしはテレビや映画などの娯楽が禁止の家庭で育ったせいか、メディアアートには非常に疎く、現代アート周辺にいるからには避けて通れない道なのだが、どうも踏ん切りがつかずずっと先延ばしにしていた。とてもいい機会だということで連れて行ってもらった。

 ナムジュン・パイクくらいしか知らない無知さでも十分に楽しめる展示で、いまのメディアアートの潮流を知るにはもってこいだった。

 

 特にウィニー・スーン 「Unerasable Characters (消せない文字)という作品が印象的だった。

 weibo(中国版ツイッターのようなSNS)で削除された投稿を学習して、バラバラにした文字を大きなスクリーンにうつすという映像作品だった。

 インターネットという世界では、一度でも投稿された情報は不可視化してもアーカイブされつづける。しかしそれは現実世界の概念のあり方も同じで、「存在」は「非存在」にはなりえない不可逆性をかならずともなう。

 人間の記憶としてあえて思い出さないようにしていたとしても、機械的に浮き彫りにさせることで「存在/非存在」を実感させられる。そのなかば非人道的な冷たいグロテスクさをつきつけられることが、気持ちの悪い気持ちよさだった。

 

 彼は大学時代に映像を学んでおり、いまでも撮影で仕事を受けて生活している人で、そのアンテナはさすがとしか言いようがない。

 メディアアートを積極的に学ぼうと思わせてくれるとてもよい機会だった。メディアアートは90年代から台頭したジャンルなので、系譜を追うにもわりと容易でハードルは低い。

 ミュージアムショップで映像史やメディアアート史を取り扱った書籍が販売されていれば思ったが、残念ながら売られていなかったので、大阪に帰ったら何か本を買おうと決意した。

 

 

 そのあと神保町でフォロワーに会う予定があったので、車で送ってもらった。ほんとうにありがたい。

 車の中でも美術から音楽や社会問題までさまざまな話をして、とても有意義な時間をいただいた。じつはこういう話をさらっと深いところまでできる知り合いがあまりいないので、非常によい出会いでもあった。

 

 つぎに会うフォロワーは喫茶店にくわしく、「Gallery&Bar Klein Blue」というギャラリー併設の喫茶店に連れてきてもらった。

 ギャラリー併設のカフェで喫煙可能な店には行ったことがなかった。アーティストは作品がヤニ汚れすることに抵抗はないのだろうかと心配になりつつも、抽象画の立派な作品の目の前でしっかりと喫煙させていただいた。

 

 彼女もわたしと同じ双極性障害ADHDをもっていて、それでもクヨクヨと立ち止まって諦めることはせずに、なんとか生きがいを見いだして生きていこうという強い意志をもっている。かねてからわたしはそこにとてもシンパシーを感じていた。

 お会いするのは2回目で、数年前にも一度お話したことがあるのだが、それを忘れさせるくらい、まるできのうも会っていたかのように盛り上がった。

 わたしは精神/発達障害を抱えているからこそ気づけたことがたくさんある。人の痛みに敏感でいられるというとありきたりで陳腐なことばではあるが、それはそうとしか言いようがない。

 他者の痛みに共感できるからこそやさしくあろうとできるし、非常に利己的ではあるがそのおかげでたくさんのやさしさを享受することができている。そういうかたちの相互扶助は福祉や医療だけでは得られない。ほんとうに素敵な出会いをたくさん与えてもらっているおのれの恵まれをつよく実感した。

 

 

 18:00の新幹線を予約していたので、東京駅まで案内してもらう。なんと大手町駅から地下で直結しているらしく、知る人ぞ知るルートだった。彼女は以前このあたりの職場ではたらいていたらしく、やはり都民は道にくわしくてすごい。

 かなりよゆうをもって東京駅に着いたのだが、どうも新幹線の予約をしていたICカードといま使っているモバイルSuicaがべつのものらしく、改札を通ることに失敗してみどりの窓口に行くことになり、お盆休みということで行列ができていた。やばい。

 新幹線が遅延していたおかげでなんとかギリギリ乗ることができて、さらにもう1泊せずに済んだ。よかった。これ以上ここにいるとさすがにお金が足りない。

 

 

 無事に指定席に座り、博多行きの新幹線が発車した。

 ほんとうに4日間が一瞬で、これまでの東京旅行の中でいちばんの思い出ができた。4日間で25人にも会うことができた。こんなにもたくさんの人たちに愛してもらっていることが恐れ多い。

 これだけわたしは性格がひん曲がっているというのに、それを見捨てないどころか愛してくれる人たちはすごすぎる。自分のご機嫌をとるだけで精一杯になってしまうカスの社会で、他人までもを愛せる人たちはほんとうにすごい。わたしも彼・彼女らを見習って、理想の"バカデカい愛"をもった人間になれるように邁進していきたい。

 一度きりの人生ならば、なるべくたくさんの人を愛したい。ここには少なからず自分が愛されたいからという動機もあるが、やはり他人にいけずでいるよりはやさしくいたほうが気持ちがいい。自分を愛せるようになるためには、自分を嫌いになる行動は取らないほうがよい。それで他人からも愛してもらえるならば一石二鳥だ。やるに越したことはない。

 

 こんなわたしに時間とお金を割いてお会いしてくれた人たちには頭が上がらない。たくさんのやさしさをもらってわたしは生きている。ほんとうにありがとう。

 今回さまざまな事情でお会いすることが叶わなかった人たちにも、絶対にいつか会いたい。生きてさえいればかならず会える。これからもカスの社会にしがみついて、ときには全力でダサくなりながら、どうかいっしょに生きてほしい。共闘できる仲間がいるというだけでわたしはギリギリ生きていられる。

 

 またかならず東京に来るので、そのときまでお互いがんばって生きよう! ほんとうに充実した4日間だった。こんなにも恵まれているだなんて、かねてから自身の特権性を自覚せよとみずからに言い聞かせてはいるが、想像以上にわたしはたくさんの人たちに支えてもらってた。こんなにもありがたいことはない。

 。おまえらのことが大すき家〜! ずっといっしょだよ。