生きていくことがわたしの使命(東京旅行記 3日目)

 

 きょうは美術館をめぐる。東京オペラシティの「髙田賢三 夢をかける」、東京都美術館デ・キリコ展」、東京都現代美術館「日本現代美術私観 高橋龍太郎コレクション」「開発好明 ART IS LIVE ―ひとり民主主義へようこそ」「MOTコレクション」を観る予定だ。

 西から東へと移動したいので、まずはオペラシティから。その前に煙草を吸いたかったので喫茶店に立ち寄る。事前に調べていたお店は、お盆だからか終日全席禁煙で営業しており、途方に暮れていたところ小さな喫茶店があるらしいとGoogleマップが教えてくれた。

 「珈琲 みみ」という10席にも満たない小さな喫茶店で、店主のおばあちゃん(みみさん)がひとりで切り盛りしているようだった。ツナトーストとアイスコーヒーを注文する。しかし東京ってモーニングという文化があまり馴染んでいないな。トーストとドリンクがセット料金にならないところが関西とちがいすぎて毎回驚く。

 

 1時間くらい居座って時間を見るととんでもない時間だった。1時間後には成城学園前に行かなければならない。ここから成城学園前が1時間だ。そんなことある?

 フォロワーにとにかく謝り倒して1時間半ずらしてもらうことにした。とりあえずオペラシティと都現美だけは見逃したくなかった。爆速で向かう。

 

 「髙田賢三 夢をかける」はファッションブランドKENZO創始者である髙田賢三のアーカイブ展のようなかんじで、彼の活動の時系列順にお洋服が並んでいた。

 彼はファッション界の「色彩の魔術師」と呼ばれており、その名前のとおり色彩感覚が独特だ。主張のつよい原色同士を合わせながらもなぜか統一感があり、なによりもどうしてか彩度の高い色がバチバチに対比されているはずなのに、日本人のアイデンティティをくすぐるのだ。そしてそれをくすぐるのがフォーマルな洋装(初期は中原淳一などに影響を受けた洋装がメインだった)というのもおもしろい。

 やはりファッションは精神性が工芸に近い。装いは、日々の暮らしを彩るためのアプローチなのである。わたしは美術品をかざるような贅沢で豪華な暮らしよりも、衣食住のひとつひとつの行動をささやかに彩る豊かな暮らしを好むので、ファッションにとても関心がある。じっさいは現代アートの専攻を卒業しているが、芸大を志した当初のきっかけはファッションだった。

 

 作品数がさほど多くはなかったのでそこはやや残念だったが、彼の活躍の系譜をたどれたのがよかった。

 何よりも、国立新美術館島根県立石見美術館で2020年ころに開催されていた「ファッション イン ジャパン 1945-2020 —流行と社会」の公式図録がミュージアムショップで販売されていた。即買いだった。

 

 

 とにかくいそいで都現美に向かう。現代アートファンとして、高橋龍太郎コレクションだけは見逃してはいけない。

 しかし都現美はアクセスが悪すぎる。清澄白河からも菊川からも徒歩15~20分かかるし、バスも都内なのに15分に1本しかない。都現美はよく行くのでそのたびに驚く。

 

 この展示が本当にすごかった。精神科医高橋龍太郎がコレクションしている第二次大戦後のアート作品がずらりと並ぶのだが、作品数が異常だ。見ても見ても終わらない。最後のほうは特に「もう帰りたいよ……」と思いながらつぎからつぎへと部屋をめぐっていた。わたしは鑑賞において、1作品あたり5~10秒しかかけないのだが(その場であれこれ解釈をしても一向に前に進めないので記憶として持ち帰るようにしている)、それでもすごい時間がかかったし、疲労感がとんでもなかった。

 

 「私観」とタイトルにあるが、たしかにやや偏りはあるにせよ、「彼の個人的な趣味」の範疇にとどめておくにはもったいなさすぎるくらいに、おおまかな戦後アートの文脈をたどっており、学び直しの機会にもなった。やはり戦後すぐの作品となると戦争責任の追求や急速に変化していく資本主義社会に対する抵抗や風刺の色の強いものが多い傾向にあるが、近年にちかづくにつれてどんどん「私とは何か」「創作とは何か」というような社会の平和が前提の作品が多い。ただ個人的に社会に開かれた作品を好むというだけで、それらが悪いということではまったくないが、平和ボケしていてちょっとつまらないなと思った。わたしはあまりにもマッチョで闘争心がつよい。

 あと展示をまわっていてふと気づいたのだが、学生運動とストリートアートには近いものがある気がする。60年代の学生運動プチブル大学生のエリート層にほとんど独占されており、逆にグラフィティは非エリート層がメインに活動しているが、社会への抵抗運動という点では共通する。そのフィールドが言語的なコミュニケーションか視覚表現的なコミュニケーションかというちがいがあるだけで、根本的には同じことだ。そういうところで最近はグラフィティに興味がある。

 

 もういい加減にお待たせしすぎてやばいので、残りの3つの展覧会はあきらめて成城学園前に向かおうとするが、フォロワーが案内しようとしてくれていた喫茶店がお盆休みで営業しておらず、また新宿に戻ることになった。新宿の穴場を教えてくれるという。

 なんとか合流して、「喫茶 楽屋」に向かう。常連の老人がちらほらいるくらいで、店内もかなりまったりしていて、新宿にもこんなところがあるのかと驚いた。しかもさらにおもしろいのが、フードメニューがうどんかそばなのだ。かけうどんを注文する。かけうどんを喫茶店で食べるのははじめてだ。

 彼女とはもう3~4年くらいの付き合いになる。前の前のアカウント(凍結済)からずっとファンでいてくれて、何度かお会いしていっしょに喫茶店をめぐっている。彼女は首都圏の喫茶店におそろしいぐらい詳しい。どうやって知るねんみたいなところまで教えてくれる。救済(たす)かる〜❗️

 18:00から代々木でバーイベントがあるが、「楽屋」にあまり長居しすぎるのもということで、「珈琲 ピース」に連れてきてもらった。わたしは食いしん坊なのでここでもごはんを食べる。喫茶店のピラフはうまい。しかし時間を見誤っており、ピラフとアイスコーヒーを爆速で吸引して先に退店することになった。

 

 

 小田急線が遅延しており、立たせてもらうバーに着いたのが17:57だった。あぶなすぎる。ぐちゃぐちゃになった髪を巻きなおそうと思っていたら、さっそく1人がきてくれた。そして2人、3人と増えていき、19:30くらいには席がすべて埋まり立ち飲みになった。そんなことあるのかと思った。ノーゲスはさすがにないだろうと踏んではいたが(来店予定DMをちらほらもらっていた)、まあそれなりにはゆっくりお話できるだろうと予想していた。こんな予想外れなんてうれしすぎる。

 そしてわたしも身体がひとつしかないので、誰かと話していると誰かと話せない。しかしみんながそこに配慮してくれて、フォロワー同士で交流してくれていた。みんな盛り上がっているようで安心した。誰も放置されたことに怒ったりなんかはしなかった。

 しかし来てくれた人たちのラインナップがおもしろすぎる。活動家のフォロワー、かつて存在した純喫茶同好会のフォロワー、一方的に閲覧してくれているフォロワー、思想YouTuber界隈のフォロワー、大学つながりのフォロワー、夜職つながりのフォロワー、発達/精神障害当事者界隈のフォロワーなど多様すぎてすごい。よくこんなにごった煮なのにみんななかよくやってくれているなと思った。ほんとうにありがたいことだ。バカデカい愛さんがいかにいろんなトピックに噛みついているかがよくわかる。

 

  チェキを撮ってもらったり、シャンパンを下ろしてもらったりして、大はしゃぎした。お金を払わなくたっていくらでも会えるそのへんの大阪のおばはん予備軍に、わざわざ時間とお金を用意して会いにきてくれる人たちがいることって、ほんとうにすごい。

 これだけたくさんの人に愛してもらっているからには、なんとしてでもこのカスの社会にしがみつかなければならない。いただいた𝑳𝑶𝑽𝑬を裏切らないために生きていくことがわたしの使命なんだと思う。がんばらなきゃな。

 

 あっという間に閉店時間がきた。23:40池袋サンシャインバスターミナル発の夜行バスで帰る予定だったのだが、ありがたいことにお酒をいただきすぎてゲボが出る寸前だったので見送ることにした。夜行バスでゲボはほんとうにしゃれにならない。

 来てくれたフォロワーの中に、歌舞伎町のホストクラブまわりについてルポを書く仕事をしているフォロワーがいて、あともうひとりオープンからラストまでいてくれたうえにシャンパンを空けてくれたフォロワーと、3人でホストクラブに行くことになった。前者のフォロワーのサブ担がいるお店に初回で行く。歌舞伎町のホストクラブには行ったことがなく、ずっと好きで見ていた歌舞伎町ルポライターの人とそこに行けるのは夢みたいだ。東京はいつもひとりで来るので、飲み屋に行くこともほとんどない。すごい日だ。

  わたしは給料精算などがあるのでふたりに先に向かってもらい、もろもろが終わってから追いかけた。ほんとうにゲボが出そうであぶない。なんとか耐えて指定のお店についた。もう烏龍茶しか飲めません。

 

 セットの途中で入ったので2人しかまわってこなかったのだが、パネル指名した子がなんと横国と首都大に落ちて大学進学をあきらめたという経歴があり、まったくホストクラブらしくない会話をした。センター試験の倫政がどうとか、おとといゆれた神奈川の地震関東大震災の関連性とか、もっとアホのノリであそびにきたのですごかった。やはりおれは衒学的チンポに弱い!

 送り指名も当然その子にして、退店。おもしろい子なので飲み直しをしたかったが、なんと歌舞伎町のホストクラブはきちんと1:00で閉店するらしい。

 どうも昨今の流れで風営法の規制がつよくなっているようだ。ミナミはなんだかんだ朝までやっている店ばかりなのでびっくりした。歌舞伎町はさまざまな規制がきびしくなりつつあるので、ホス狂のほうも自由を求めてミナミに流れてきているという話を聞いたことがある。大変なことになっているな。

 

 そのあとわたしがどうしても空腹に耐えられなかったので、3人ですしざんまいに行った。安心安全のすしざんまい。あんまり覚えていないが何かいろいろつまんだ気がする。

 ルポライターのほうのフォロワーは歌舞伎町のご近所に住んでいるらしく、ぼちぼち眠いということなので、彼女とは別れた。ゴールデン街をおすすめされたので向かう。

 

 ゴールデン街に行くのは人生で2回目で、酒癖の死ぬほど悪い元彼と数年前に1度行ったという最悪の記憶がある。いっしょにきてくれた女の子もまあまあ酔っていたが、べつに酒癖は悪くなさそうだ。おそらく酔っ払いすぎていて短時間で記憶が飛んでいるようで、ずっと同じ話をして自分でケラケラ笑っているところが変すぎておもしろかった。

 だいたい性愛の話をしていたと思う。好みの男のタイプがまったくいっしょですごかった。これまでにメロかった男のエピソードを披露しあって、キャーキャー言いながら始発を待った。女友達が(男友達にくらべて)少ないので、こういう女の話ができるお友達ができたのがすごくうれしかった。ビバ・バカマンコ。

 

 山手線は4:30から走っているらしい。お盆休みということでやはり歌舞伎町は人間まみれで、ネカフェはどこもいっぱいのようだった。どうも池袋には空き部屋があるということで揺られて向かう。

 とりあえずあしたの18:00の新大阪行きの新幹線を予約した。何をして過ごそうか、見逃した展示に行こうか、と考えていたところに、きょうバーに来てくれたがあまりゆっくり話せなかったフォロワーと、日程が合わず会えなかったフォロワーと、それぞれ会えることが決まった。ぜんぜん知らない土地に行って暇になることがないなんてありがたいにもほどがある。ほんとうにありがとう……。

 

 というわけで、5:30ごろにネカフェの個室で寝る。11:00には起きたい。なんせ東京のネカフェは高すぎるから長居したくないのだ。東京ってお金を払わなきゃ何もできないな……。