ここでは、交差点など交通事故の起きやすい道路上に置かれる、走り出す少年の形を模した立て看板のうち、東近江市社会福祉協議会(旧・八日市市社会福祉協議会)が発案して、久田工業が生産した写真①と、そこから派生したものを「飛び出し坊や」と呼ぶ。写真①の飛び出し坊やは昭和48年から生産されはじめ、ファンの間では「とび太くん(フルネーム:飛出とび太)」「0系」とも呼ばれている。
当時の日本は高度経済成長期にあり、自家用車が急速に普及して、見通しの悪い交差点などから飛び出す子供との接触事故が多発し、交通戦争と呼ばれるまでに発展していたため、ドライバーに事故防止を促す目的で設置されるようになった。飛び出し坊やの設置や管理は主に地元のPTAや町内会が行っている。
0系のとび太くんをモチーフに、全国ではさまざまな髪型や表情、ファッションの飛び出し坊やが見られる。場合によっては著作権法に抵触するのではないかと思われる既成のキャラクターが飛び出し坊やの役割を担っていることもある(写真②)。
私が飛び出し坊やを公共彫刻だと定義する理由は3点ある。
まず1点目は、公共と定義される空間で生活をしている多くの人間にとって、飛び出し坊やの看板は飛び出しによる交通事故への警告を意味するという共通認識があると考えられるという点にある。
私は制作において京都市内をフィールドワークで歩き回っているが、飛び出し坊やはまず学校付近の交差点や、そこから繋がる通学路に見られることが多い。学校という公共の空間に通う子供たちは、通学しながら飛び出し坊やの存在を目にしているだろうし、全てのケースとは言い切れないが、飛び出し坊やにはしばしば「飛び出し注意」という文字が書かれている(写真③)。子供たちは通学するうちに、この飛び出し坊やが交通事故を防ぐ目的で置かれていることを学習するだろう。
私たちは、子供の頃からこの飛び出し坊やが交通事故を防ぐ意識を高めるために存在することを共通認識しているのではないだろうか。
2点目は、地元のPTAや町内会が設置・管理を行っているという点にある。
飛び出し坊やは、著名な彫刻家やデザイナーによる制作ではなく、多くの場合は、久田工業でとび太くん型に型抜きされたベニヤ板に各自治体がフリーで図柄を描いたり、独自で用意したベニヤ板にペンキで描いたものを人型にくり抜いたり、とび太くんをプレスで大量に製造する事業者に依頼することで手配されている。
飛び出し坊やという看板は、見る側が共通して交通事故の防止への意識を高めるだけでなく、作る側もPTAや町内会という私的ではない公共の団体であるという点で、彫刻として公共性が高いと考えられる。
3点目は、飛び出し坊やに一定数のファンがいるという点にある。
そもそも、上記の「0系」という呼び名はイラストレーターのみうらじゅんによって命名され、その後テレビやイベントなどで徐々に名前が広まることとなった。みうらじゅんは、作品として「飛び出さない坊や大全 第一巻」というものをほぼ日刊イトイ新聞で紹介している(坊やが飛び出すから事故が起きてしまうので、坊やの方も飛び出すなよという意味が「飛び出さない坊や」には込められている)。
その後、Mahorova社がとび太くんに目をつけ、「とびだしくん」として商標登録し、携帯ストラップやTシャツなどのキャラクターグッズ販売を始めた。そして、Mahorovaがグッズを発注していた製作工場が「とびだしくん」の着ぐるみを製作し、いろいろな地方のイベントに登場するようになり、一躍ブレイクした。2014年には、「国宝みうらじゅんいやげもの展」(4/18~5/14@梅田LOFT)において全国各地から集められた飛び出さない坊やなどの写真が展示され、サイン会イベントでは着ぐるみを着た飛び出し坊やが共演し、大勢のファンが殺到した。また、このコラボイベントでは、みうらじゅん×飛び出し坊やのオリジナルグッズも販売されている。
このように、飛び出し坊やは、ただの街の交通安全啓発看板の役割に留まらず、大衆に愛される公共のキャラクターとして機能している。
以上の「交通事故防止を意味するという共通認識を人々が持っている」、「見る側のみならず作る側も公共団体である」「大衆に愛される公共のキャラクターである」という3つの点から、私は飛び出し坊やを公共彫刻として考える。
写真③
参考リンク
お坊さんに天使!?増殖し続ける「飛び出し坊や」、発祥の地を訪ねてみた。|eoお出かけ
https://eonet.jp/travel/chousa/170523/p2.html
ほぼ日刊イトイ新聞-みうらじゅんに訊け!───この島国篇───
https://www.1101.com/shimaguni/jun/2008-06-15.html
あの「飛び出し坊や」ブレイクのきっかけは、工場の暴走だった?!<dot.>|AERA dot.(アエラドット)
https://dot.asahi.com/dot/2015101600081.html?page=1
みうらじゅん|Mahorova
http://www.mahorova.com/tag/みうらじゅん